製塩地整理事蹟報告

資料解題

本書は明治43年(1910)から44年にかけて日本国内の塩田を対象に実施された製塩地整理の報告書である。印刷は大正元年(1912)8月31日のことである。

日本は高温多湿であるが四面が海に囲まれているため、全国各地に塩田が造られた。塩田塩業といわれる。塩専売制は、日露戦争の財政収入、国内塩業の保護育成を意図して明治38年に施行される。
塩専売制は、平成9年(1997)にいたるまでの約1世紀にわたり実施された。塩専売制のもと塩田の近代化が推進されることになるが、この間、不良塩田は自然淘汰されるのではなく、4度に渡る製塩地整理によって、段階的に塩田は無くなっていく。
1度目は、明治43年、44年に実施された製塩地整理で全国にある不良塩田を整理したものである。この内容を示したのが本書である。具体的な内容は後述する。
2番目は、昭和4年(1929)、5年に実施された第二次製塩地整理である。これは、公益専売が展開され、合同機械製塩が推進される中、塩田合理化が進み、約1,200haを整理した(残存塩田約4,500ha)。
3番目は、昭和34年(1959)、35年に実施された第三次塩業整備である。戦後復興を遂げ、入浜塩田から流下式塩田へ転換する過程で実施した。流下式塩田とはゆるい傾斜に粘土を張った流下盤に海水を流し込み、太陽熱で蒸発させ、さらに枝条架の上から滴下させ風力を利用して蒸発を促進させて濃い塩水(鹹水(かんすい))を採るもので、これにより装置産業化を実現した。結果、入浜塩田に比べて労力は10分の1、生産量は2.5から3倍を実現したのである。これにあわせて約2,000haを整理している(残存塩田約3,000ha)。
そして、最後は昭和46年(1971)、47年にかけて実施された第四次塩業整備である。イオン交換膜法による採鹹(さいかん)と真空式蒸発缶による煎熬(せんごう)が実施される中、いわゆる観光塩田を除いた全ての塩田塩業(流下式塩田)は廃止された。この時、廃止した塩田は約2,200haであった。

第一次製塩地整理は、塩専売制が実施されたことで、過剰な塩生産に対応して零細な塩田や農業や漁業の合間に製塩業を行っている塩田を整理することを目的に行われた。
それまでの製塩地は、1府35県546市町村、製造人員28,081人、製塩場数13,937か所、8,264町歩に及んでいた。この製塩地整理は瀬戸内塩田を含んだ全国を対象とし、製造人員14,687人、6,422か所、1,793町歩が整理の対象となっている。この整理の対象とならなかった製塩許可地は17県226市町村、製造人員13,394人、製塩場数7,515箇所、6,438町歩となっている。不足分は当時、租借地であった関東州と、同じく日本の統治下にあった台湾での生産塩によって補うとしている。結果、塩の価格は低減し、品質も安定した。また、製塩地整理は、整理される当事者にとってはこれまでの生業の基盤を失うことを意味した。その意味で、できるだけ製塩業者の不満を招かぬよう、調査を実施し、適切な交付金、下付金を与えることで、製塩地整理を行うことになる。本書は、こうした過程を紹介したものと言えるであろう。

なお、本書の構成は以下の通りである。(カッコ内は筆者による内容の説明)
 第一章 概説
 第二章 計画(塩専売制前後における塩生産高過剰の政策、議論について)
 第三章 法律制定(「製塩地整理ニ関スル法律案」制定過程について)
 第四章 整理事務管掌(特設することなく専売局収納部が管轄したこと)
 第五章 法施行準備(法案制定までの調査、雛形などの作成過程について)
 第六章 禁止シタル製塩地及其ノ製塩状況(廃止予定塩田の実態について)
 第七章 法施行ニ関スル訓示及諮問(法案制定に伴う理念や実施に向けた準備について)
 第八章 法施行ニ対スル当業者動静
 第九章 調査(製塩地整理の円滑実施に向けた調査について・・・交付金・下付金を含む)
 第十章 調査ニ関スル監督(調査の厳格化を意図した監督について)
 第十一章 審査及決定(交付金、下付金などの申請と調整、決定について)
 第十二章 不服申立(再鑑定依頼などの不服申立に対する調整について)
 第十三章 交付金
 第十四章 整理ノ結果(残存塩田の様子やそれに伴う専売局支局の再編などについて)
 第十五章 整理費(整理に伴う費用について)
 第十六章 整理後ノ処分(整理後の生産塩や鹹水の処分や違反者への対応について)
 附録   製塩地整理事務に従事した職員名簿

本書を通じて、当時、専売局の実施した製塩地整理の歴史的意義を明らかにするだけでなく、それ以前の全国に展開していた塩田地帯の実態解明にも資すことができるだろう。近代における産業政策の一端を垣間見ることができるはずである。本書のデジタルデータの公開により、さらなる研究が進展することを期待するものである。

落合 功(青山学院大学経済学部教授、日本塩業研究会代表)

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PDFファイル

表紙、注意、巻頭言、目次、凡例(6.0MB)
第一章  概説(2.5MB)
第二章  計量
 第一節  専売統一前ニ於ケル準備(7.3MB)
 第二節  専売統一後ニ於ケル計量(36.8MB)
第三章  法律制定
 第一節  省議決定(8.5MB)
 第二節  制定及公布(16.1MB)
第四章  整理事務管掌(10.2MB)
第五章  法施行準備
 第一節  施行ニ関スル準備(16.9MB)
 第二節  施行ニ関スル規定
       (その1)(22.6MB)
       (その2)(34.6MB)
第六章  禁止シタル製塩地及其ノ製塩状況
 第一節  禁止シタル製塩地(34.0MB)
 第二節  製塩ノ状況(30.8MB)
 第三節  製塩禁止地地図
       (その1)(30.1MB)
       (その2)(25.3MB)
第七章  法施行ニ関スル訓示及諮問
 第一節  明治四十三年度(16.2MB)
 第二節  明治四十四年度(34.2MB)
第八章  法施行ニ対スル当業者動静(6.8MB)
第九章  調査
 第一節  調査ノ順序(3.3MB)
 第二節  明治四十三年度整理
  第一款  準備調査(27.2MB)
  第二款  予備調査(6.4MB)
  第三款  交付金申請(1.2MB)
  第四款  本調査(13.6MB)
  第五款  鑑定及協議(2.2MB)
 第三節  明治四十四年度整理
  第一款  準備調査
        (その1)(4.1MB)
        (その2)(16.6MB)
        (その3)(34.7MB)
        (その4)(18.9MB)
  第二款  予備調査(3.9MB)
  第三款  交付金申請(1.1MB)
  第四款  本調査(36.0MB)
  第五款  鑑定及協議(1.8MB)
第十章  調査ニ関スル監督
 第一節  監督ノ方針(7.6MB)
 第二節  明治四十三年度整理監督(31.6MB)
 第三節  明治四十四年度整理監督(21.4MB)
第十一章 審査及決定
 第一節  明治四十三年度整理ニ対スル審査及決定
  第一款  審査(15.6MB)
  第二款  決定(3.0MB)
 第二節  明治四十四年度整理ニ対スル審査及決定
  第一款  審査(3.4MB)
  第二款  決定(1.0MB)
第十二章 不服申立
 第一節  裁定(10.3MB)
 第二節  行政訴訟(7.1MB)
第十三章 交付金
 第一節  国債発行並端金ニ関スル予算(7.3MB)
 第二節  交付金区分
       (その1)(50.5MB)
       (その2)(24.9MB)
       (その3)(26.8MB)
       (その4)(22.7MB)
 第三節  交付金給付(7.7MB)
第十四章 整理ノ結果
 第一節  整理利益(7.0MB)
 第二節  塩価引下(11.3MB)
第十五章 整理費(3.3MB)
第十六章 整理後ノ処分
 第一節  製塩禁止後ニ於ケル塩及鹹水ノ処分(3.8MB)
 第二節  製塩禁止後ニ於ケル取締(3.3MB)
 第三節  製塩業者及従業者ノ転業(7.1MB)
 第四節  廃止製塩地ノ利用(10.7MB)
 第五節  不用土地建物ノ処分(3.0MB)
附録
 一 職員(17.6MB)
 
奥付、正誤表(2.6MB)