塩専売史
資料解題
塩専売制は、日露戦争(明治37~38年(1904~1905))の財源確保策の一つとして始まった。明治37年10月、閣議に提出され、12月に法案が議会を通過した。裁可されたのは12月31日のことであり、公布は翌38年1月1日で、同年6月1日に施行された。塩専売制の廃止は平成9年(1997)4月のことであり、実に約1世紀(92年)続くことになる。もちろん、この間、組織も制度も生産様式も大きく変化した。
『塩専売史』は大正4年(1915)3月に刊行されたものである。なお、同書の凡例で示されている通り、その前々年の大正2年12月までの沿革を示したものである。その意味では、「塩専売史」といっても、1世紀近い塩専売制の歴史のわずか10年が叙述されているのに過ぎない。
塩専売制は、平成9年(1997)にいたるまでの約1世紀にわたり実施された。塩専売制のもと塩田の近代化が推進されることになるが、この間、不良塩田は自然淘汰されるのではなく、4度にわたる製塩地整理によって、段階的に塩田は無くなっていく。
同書は、以下の13章で構成されている。
第一章 総説、第二章 専売制ノ制定、第三章 専売制ノ改正、第四章 製造許可、第五章 収納、第六章 移入、輸入、第七章 鑑定、第八章 回送、第九章 販売、第十章 交付金下付及追徴、第十一章 取締、第十二章 会計、第十三章 官制庁規
上記の章立てからもわかるように、個々の塩田の実態や商業組織の動向の詳細などは明らかにされていない。もちろん、制度と実態との相克などの叙述もほとんどない。本書は塩専売制の成立過程を各分野ごとに(章ごとに示された通り)叙述すると共に、根拠史料を明示したものと言えるだろう。
塩専売制が成立する背景は、近世から瀬戸内地域一帯で広く展開した休浜法を基盤とした紐帯や、近代以降の政治的運動、生活必需品の確保の視点など、幅広い要因が挙げられるが、本書では塩消費税の立案から塩専売制への展開を明らかにし、財政専売を意図して成立したことを示している。
また、塩専売制は日露戦争のための財政収入を意図して成立したものとされるため、日露戦争が終結すると、自ずと塩専売制廃止の運動が展開されることになる。このとき、もう一つの目的であった国内塩業の保護育成に着目し、また生活必需品である塩を全国に行き渡らせることが求められた。そのための制度設計が策定され、推進された。本書はまさにその過程を示したものと言えるだろう。
近代以降の歴史を振り返る時、日用品を対象とした専売制度は塩以外に煙草、樟脳だけであり、特殊な印象がある。ただ、塩は全ての国民の必需品であり、また20世紀以降急速に発展する化学工業の原料として重要な物資である。その意味で、政府が専売制のもと生産から消費までを一元的に管理し、国民的全国市場(一定の価格で国内全体に行き届くようにすること)を実現したほとんど唯一の商品であることは歴史的にも注目できるだろう。本書は塩専売制成立期の諸制度を明らかにし、塩専売制の本質を明らかにした古典であり、また根拠を示した貴重な史料集といえるのである。
落合 功(青山学院大学経済学部教授、日本塩業研究会代表)
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PDFファイル
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表紙、序言、凡例(1.8MB)
目次(3.0MB)
第一章 総説(4.3MB)
第二章 専売法ノ制定
第一節 専売法施行計画
第一款 専売前ニ於ケル塩制ノ一班(12.8MB)
第二款 塩消費税ノ立案(13.5MB)
第三款 塩専売ノ計画(8.4MB)
第二節 専売法ノ公布
第一款 塩専売計量ニ対スル当業者ノ動静(5.5MB)
第二款 塩専売法案ノ提出(14.7MB)
第三款 塩専売法ノ公布(4.9MB)
第三節 法施行ニ関スル諸規則ノ制定
第一款 法施行ニ関スル諸調査並準備
第一項 塩ノ生産高、輸出入高及消費高(16.6MB)
第二項 塩ノ計量、鑑定、包装、貯蔵及回送(7.1MB)
第三項 塩価及売買慣例(8.7MB)
第四項 庁舎、倉庫ノ位置(16.4MB)
第五項 専売収支計算(11.4MB)
第六項 専売施行ニ関スル諮問並講習(6.8MB)
第七項 土地、建物其ノ他設備ノ準備(8.2MB)
第八項 各塩務局ニ於ケル準備(3.1MB)
第二款 法施行ニ関スル諸規則ノ制定
第一項 事業ニ関スル規程
(その1)(42.6MB)
(その2)(42.1MB)
第二項 庶務ニ関スル規程(18.0MB)
第三款 塩務官庁ノ設置(7.4MB)
第三章 専売法ノ改正
第一節 専売法ノ改正(14.1MB)
第二節 専売法不施行地ノ改正(1.0MB)
第三節 施行細則ノ改正(1.9MB)
第四章 製造許可
第一節 塩及鹹水製造許可(8.5MB)
第二節 塩及鹹水製造ノ制限
第一款 塩生産高制限並製塩地整理ノ計画(10.2MB)
第二款 製塩地整理法ノ公布並之ニ関スル施行規則ノ制定(36.1MB)
第三款 製塩地整理ニ対スル関係当業者ノ動静(1.8MB)
第四款 整理ノ執行(9.5MB)
第五款 交付金ノ給付並整理ノ結果(3.1MB)
第六款 副産塩製造ニ関スル制限(0.6MB)
第五章 収納
第一節 収納ノ方法
(その1)(23.2MB)
(その2)(27.7MB)
第二節 包装及記号(11.8MB)
第三節 賠償価格(9.9MB)
第六章 移入、輸入
第一節 総説(2.1MB)
第二節 台湾塩(4.9MB)
第三節 関東州塩(4.1MB)
第四節 外国塩(4.0MB)
第五節 含塩鉱物(1.6MB)
第七章 鑑定
第一節 塩ノ鑑定
第一款 品位及等級(5.0MB)
第二款 鑑定方法(4.9MB)
第二節 製塩試験(4.5MB)
第三節 塩ノ変性(1.9MB)
第四節 含塩鉱物検定(2.1MB)
第五節 技術官吏養成(2.9MB)
第八章 回送
第一節 回送ニ関スル沿革
(その1)(21.2MB)
(その2)(28.0MB)
第二節 回送ノ方法(5.0MB)
第三節 運送契約(5.4MB)
第四節 徴収回送費(4.2MB)
第九章 販売
第一節 総説(17.2MB)
第二節 販売機関
第一款 塩販売官署(9.7MB)
第二款 塩売捌人(16.8MB)
第三節 売渡方法
第一款 売渡ノ方法(6.6MB)
第二款 売渡代金及担保(22.6MB)
第三款 特別定価売渡(11.3MB)
第四款 移輸入塩売渡(7.9MB)
第四節 売渡価格(14.7MB)
第五節 塩販売状況(15.1MB)
第六節 塩市場販売価格(18.7MB)
第七節 塩ノ移出及輸出(13.5MB)
第十章 交付金下付及追徴
第一節 交付金下付
(その1)(23.3MB)
(その2)(26.7MB)
第二節 追徴(9.6MB)
第十一章 取締
第一節 取締ノ方法
(その1)(41.1MB)
(その2)(40.0MB)
第二節 犯則処分(19.3MB)
第十二章 会計
第一節 総説(7.0MB)
第二節 収入(19.2MB)
第三節 支出
(その1)(24.6MB)
(その2)(24.8MB)
(その3)(26.9MB)
第四節 総括計算(35.0MB)
第五節 物品(20.0MB)
第六節 官有財産及固定資本
(その1)(21.6MB)
(その2)(31.4MB)
第七節 旅費及諸給与(19.2MB)
第十三章 官制庁規
第一節 官制(11.7MB)
第二節 管轄区域(29.6MB)
第三節 事務分掌
(その1)(20.6MB)
(その2)(25.2MB)
第四節 事務監督(6.3MB)
第五節 統計年報(2.8MB)
奥付(0.4MB)