昭和四年度 昭和五年度 製塩地整理概況報告書

資料解題

本資料は、昭和4(1929)年から翌年の第二次製塩地整理に関する専売局作成報告書である。専売局は昭和2(1927)年8月より内地の製塩地整理を計画し、目的に「内地及殖民地ニ於ケル塩生産ノ過剰ヲ緩和シテ其ノ需給ヲ円滑ナラシメ且内地ニ於ケル塩価ノ低減ヲ図ル為」(本資料3頁)と掲げた。専売局は明治43(1910)~44(1911)年の第一次製塩地整理で九州地方など非瀬戸内地域の製塩地を整理していたが、1920年代には過剰塩の消化に苦慮していた。

例えば、大正14(1925)年11月に東京地方専売局は千葉県銚子町の醬油醸造業者に「地方小醸家ハ六ヶ月前ヨリ内地塩壱割七分使用シツヽアリ野田銚子モ壱割五分使用サレ度」と要請した(「内地塩買入交渉顛末」1925年(ヤマサ醬油株式会社所蔵、ヤマサ史料AT14-56);林(2003))。醬油醸造業者は1890年代後半に輸移入塩の調達を開始したが、輸移入塩の対原料塩比率は大正6(1917)年中葉まで恒常的に30%を下回った。しかし、同年に食塩需給が逼迫し、専売局は対応策として植民地塩の供給拡大を図った。同年より専売局は青島塩輸入の開始で植民地塩輸移入量を増強し、官費回送制度の適用開始で植民地塩流通の拡大を促進した。そして、翌大正7(1918)年から専売局はパンフレット「台湾関東州塩使用案内」を配布し、天日原塩の溶解・泥土除去手順と適切な食塩投入量の算出法を広報した。以上の施策で専売局は対内地塩品質差の対処法を周知し、植民地塩消費拡大策の展開で醬油醸造業の対原料塩輸移入塩比率は大正8(1919)年初頭に70%を上回った(前田(2020; 2021))。こうした一連の施策実施から10年を経ずに内地塩供給は過剰へ転じ、専売局は第二次製塩地整理の立案に着手した。この立案過程まで本資料は記録対象に含めている。

本資料の構成は以下の通りである。

一 製塩地整理ノ計画 / 二 整理製塩地選定ノ方針 / 三 交付金 / 四 製塩地整理ニ関スル法律省令 / 五 整理スヘキ製塩地ノ決定 / 六 交付金調査及交付 / 七 行政訴訟 / 八 整理ノ実蹟 / 九 整理事務従事員ノ勤労

本資料は第二次製塩地整理の計画立案から結果まで示し、同整理に関する研究では必須の資料と位置付けられよう。但し、利用には慎重な姿勢が求められる。

三和(2012)は経済政策史研究の課題に政策意図と目標の的確な把握を掲げたが、政策意図と目標の把握は容易でない。昭和47(1972)年に原朗は「政策主体が仮に特定の階級的利害に立脚していても、それ以外の諸階級・諸階層の利害やそれらに対する影響をも考慮に入れるであろうから、政策主体の本来の政策意図と名目上公表する政策目標とは一致するとはかぎらない」(安藤・長岡(1976))と指摘し、原の指摘は本資料の考察でも考慮を要する。重見(2000)が山口県平尾塩田内部の利害対立を描写したように、第二次製塩地整理は製塩業界内・地域内などで多面的な利害対立を引き起こした。以上の事態で「政策主体の本来の政策意図」と「名目上公表する政策目標」は乖離し得たが、乖離発生時に政策当局刊行資料は「名目上公表する政策目標」を記載する。そこで、政策当局刊行資料の過度な利用は分析結果に「色濃く官撰史的性格」(原(1983))を付与し、「政策主体の本来の政策意図」は政策当局刊行資料と多様な史料の併用で多角的な視点から把握すべきであろう。

専売局は第二次製塩地整理を「現ニ比較的生産力低ク且生産費高キ」もしくは「地勢其ノ他ノ関係上将来発達並永続ノ見込乏シキ」製塩地約1,100町歩・製塩量約1億5,000万斤対象の計画として立案した。そして、同局は採鹹地面積1,169町歩・製塩量1億5,030万斤を整理し、計画達成率は100%を超過した(本資料3–5, 29頁)。以上の過程を専売局は「親切、熱心而モ厳正以テ民部ニ折衝シタル結果関係者ヲシテ完全ニ当局ノ調査ニ信賴セシメ鑑定、協議共ニ頗ル円満ニ結了スルコトヲ得タリ」(本資料33頁)と自賛し、本資料は全般的に整理過程の円満さを強調している。しかし、上記の経済政策史研究における議論を踏まえれば、本資料に対する過度の依存は慎むべきであろう。関連史料と本資料の並行的な利用と分析に期待したい。

前田 廉孝(慶應義塾大学文学部准教授、日本塩業研究会会員)

【参考文献】

  • 安藤良雄・長岡新吉(1976)「経済政策史の課題と方法」安藤編『日本経済政策史論 下』東京大学出版会、377–392頁。
  • 重見之雄(2000)「第2次塩業整備に関する覚え書き(その1):山口県平生塩田関係者の動向を中心として」『日本塩業の研究』27、107–123頁。
  • 林玲子(2003)『関東の醬油と織物:一八~一九世紀を中心として』吉川弘文館。
  • 原朗(1983)「財政・金融」中村隆英・伊藤隆編『近代日本研究入門 増補版』東京大学出版会、242–259頁。
  • 前田廉孝(2020)「帝国日本の台湾・関東州塩需給と流通主体:1890–1910年代を中心に」『史学』(慶應義塾大学)89(3)、83–136頁。
  • 前田廉孝(2021)『塩と帝国:近代日本の市場・専売・植民地』名古屋大学出版会(近刊)。
  • 三和良一(2012)『経済政策史の方法』東京大学出版会。

ご利用に当たって

以下に掲載しているのは、昭和6(1931)年に専売局が発行した『昭和四年度 昭和五年度 製塩地整理概況報告書』を、公益財団法人塩事業センターが電子化(PDFファイル化)したものです。原資料は約90年前に発行されたもののため、紙の汚れ等により読みづらい箇所もあります。なお、文章のOCR処理は実施しておりません。

原資料は、巻頭言が2ページ、本文が34ページ、統計表が9枚という小さな冊子です。以下では、これを「表紙、巻頭言」、「本文」及び「統計表」の3つのPDFファイルに分けて掲載しています。

各データは、ご自由にダウンロードいただけますが、各データ及びこれを印刷したものの商業利用はご遠慮ください。

なお、『昭和四年度 昭和五年度 製塩地整理概況報告書』の記載内容に関するお問合せには、回答できないこともありますので、あらかじめご了承願います。

【資料名について】
本データのPDF化に使用した原資料の背表紙には、『昭和四・五年度 製塩地整理概況報告書』の書名が記載されていますが、これは、発行後のいずれかの時点で、保存のために再製本した際に略記されたものと推定されるので、原資料の扉等に記載されている『昭和四年度 昭和五年度 製塩地整理概況報告書』がオリジナルの書名と判断し、こちらを採用しています。

PDFファイル

表紙、巻頭言(1.3MB)
本文 (14.0MB)
 一  製塩地ノ整理
 二  整理製塩地選定ノ方針
 三  交付金
 四  製塩地整理ニ関スル法律省令
 五  整理スヘキ製塩地ノ決定
 六  交付金調査及交付
 七  行政訴訟
 八  整理ノ実蹟
 九  整理事務従業員ノ勤労
統計表 (9.3MB)
 第一表  製塩地整理段別塩生産高表
 第二表  製塩地交付金申請件数及人員数
 第三表  塩製造者ニ対スル転業交付金額表
 第四表  製塩地見積価額禁止後見積価額比較表
 第五表  製塩地見積価額、禁止後見積価額及交付金額表
 第六表  建物見積価額、禁止後見積価額及交付金額表
 第七表  設備基器具器械見積価額、禁止後見込価額及交付金額表
 第八表  整理交付金統括一覧表
 第九表  明治四十三年度 同四十四年度 製塩地整理段別塩生産高表